「利他」とは、「与える」ものではなく「受け取る」もの

中島岳志「思いがけず利他」

4/24(日)10:30~12:00に「シン図書館」とお隣の「サタデーブックス」と共催で読書会を開催します。毎月最終日曜日に読書会は開催していますが、今月は「シン図書館」で選書を行いました。課題図書は中島岳志さんの『思いがけず利他』です。

「利他」という言葉を聞くと、ついつい「誰かに何かをしてあげる・与える」ようなイメージを持ちますが、中島さんは“利他が起動するのは「与えるとき」ではなく「受け取るとき」です“と説明します。

また、利他にはタイムラグがあるとも説明しています。例えば、中島さんも実体験として紹介している学生時代の恩師の言葉です。恩師というのは当時から恩師だったわけではなく、当時言われてよく理解はできずにいたけど何かしら引っかかるものあがり、大人になってから当時の先生の言葉を理解し、そうして勝手にかつての生徒が教師を「恩師」だと感じるような体験です。

このように中島さんは「利他」とは“死者と対話し、自己の被贈与性に思いを巡らせるとき、そこに「弔い」が生じ、「利他」が起動します“と説明します。最近読んだ本では、千葉雅也さんと國分功一郎さんの対談をまとめた『言語が消滅する前に』で「私淑する」ことの重要性について語られており、似たような考えだと思い、個人的にとても面白かったです。

ヒンディー語の「与格」という構文から「利他」を考える

中島さんはこうした「利他」について、色々なものを参照しながら論を展開します。例えば、中島岳志さんの専門は政治学ですが、元々中島さんは大阪外語大学に入学してヒンディー語を学びます。そのヒンディー語には「与格」という独特の構文が存在し、自分の意志や力が及ばない現象について「与格」で表現されるそうです。

本書にも紹介されていますが、この辺りは哲学者の國分功一郎さんの『中動態の世界 意志と責任の考古学』とも似ている考えで、とても面白かったです(中動態を読まれ方には特におすすめの一冊です)。それ以外には、本書で最も重要な参照として落語の『文七元結』に対する立川談志の考察や柳宗悦の民藝論、土井善晴さんの料理論など様々な参照があります。

色々な参照を元にしながら「利他」という捉えづらいものを炙り出す内容になっています。とても面白い内容となっているので、興味のある方はぜひ手にとっていただきたいです。

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